「AIで業務効率化を」と言われても、10人前後の会社では、何から手をつければいいのか分かりにくいものです。結論から言うと、AIで減らしやすいのは文章を書く・まとめる・整える仕事です。
この記事では、AIが得意な仕事と苦手な仕事の見分け方、最初に任せたい事務作業、社長と担当者の2人で始める進め方、情報漏えいを防ぐ社内ルールまで、実際に会社で使う順番でまとめます。
結論:AIの業務効率化は「下書きを作らせて、人が仕上げる」
- 任せやすいのは、くり返しが多く、間違えても直せる仕事見積書の送付メール、日報のまとめ、議事録、問い合わせへの返信の下書き、求人原稿など
- 任せないのは、責任のある判断金額の最終確認、契約や法律の判断、人事評価。最後は人が決める
- 始め方は「1つの作業を2週間ためして、かかった時間を比べる」減らなければ、その作業はやめてよい
- 会社の情報を入れる前に、ルールを決める入れてはいけない情報と、入力した内容が学習に使われるかの確認
AIは、仕事を丸ごと任せる道具ではありません。白紙から書き始める時間をなくす道具と考えると、うまくいきます。
AIで業務効率化できる仕事、できない仕事
ここでいうAIは、ChatGPT、Gemini、Copilot、Claude などの、文章で指示すると文章で答えてくれる「生成AI」のことです。得意なことと苦手なことが、はっきり分かれています。
AIが得意なこと
- 下書きを作るメール、お知らせ、求人原稿、チラシの文面
- まとめる・短くする長い日報や会議のメモを、要点だけにする
- 言い換える・整える箇条書きのメモを、取引先に出せる文章にする
- 並べ直すバラバラの情報を、表や手順の形に整理する
- 考える相手になる案を10個出させる、抜けている点を指摘させる
AIが苦手なこと
- 正確な計算桁の多い合計や税の計算は、間違えることがある
- 社内の事情・最新の情報知らないことでも、もっともらしく書いてしまう
- 責任のある判断契約、採用、評価、お金の支払い
特に注意したいのは、AIが知らないことでも自信ありげに答える点です。数字・日付・人名・社名・法律の条文などは、必ず元の資料と照らし合わせてから使います。逆に言えば、「元の資料を渡して、形を整えてもらう」使い方なら、間違いはぐっと減ります。
任せやすい仕事の見分け方
迷ったら、「くり返しの多さ」と「間違えたときの影響」の2つで考えます。
左上の「毎週のようにくり返し、間違えても社内で直せる」仕事が、最初の候補です。
右上の「くり返しは多いが、間違えると取引先に迷惑がかかる」仕事も時間は減らせますが、必ず人が確認してから外に出します。右下の仕事は、AIに任せません。
中小企業が最初に任せたい事務作業8つ|AI活用の例
10人前後の会社で、社長や事務の方の時間を取りやすい作業から並べました。指示(AIへの頼み方)の例も付けます。指示は「誰に向けて・何を・どんな形で」を書くと、使える答えが返ってきやすくなります。
1. 見積書・請求書の送付メールと説明文
見積書の金額は、今お使いの見積ソフトやExcelで作ります。AIに任せるのは、見積書に添える文章です。値上げの理由、納期の説明、前回からの変更点など、毎回少しずつ違うのに、書くのに時間がかかる部分です。
指示の例
取引先の購買担当者に送る、見積書送付のメールを書いてください。丁寧だが長すぎない文面で、200字程度。内容:部品A 300個の見積もり、前回より単価が上がった理由は材料費の値上がり、納期は受注から3週間。
2. 日報・作業報告のまとめ
現場の方には、箇条書きのメモやスマホの音声入力で要点だけ残してもらい、報告書の形に整えるのをAIに任せます。1週間分の日報を貼り付けて、週報にまとめさせるのも得意です。
指示の例
以下は今週の日報5日分です。社長に報告する週報として、①終わった作業 ②問題が起きたこと ③来週の予定 の3つに分けて、箇条書きでまとめてください。日報に書かれていないことは足さないでください。
最後の一文のように、「書かれていないことは足さない」と頼んでおくと、AIが話を盛るのを防げます。
3. 会議・打ち合わせの議事録
録音を文字に起こす機能は、会議ツール、スマホのアプリ、AIサービスの音声入力などに広く付いています。文字に起こした内容をAIに渡し、「決まったこと」「宿題と担当者」「期限」に分けてまとめさせると、議事録の清書がほぼ要らなくなります。録音するときは、参加者に一言断ってからにしましょう。
4. 問い合わせ・クレームへの返信の下書き
よくある質問とその答えを一度まとめておき、それをAIに渡して返信の下書きを作らせます。クレームのように気を使う返信ほど、落ち着いた文面の下書きがあるだけで、書く時間と気持ちの負担が軽くなります。送る前には必ず人が読みます。お客様の名前や連絡先は入れず、「お客様」「A社」のように置き換えてから渡します。
5. 求人原稿
人手不足に悩む会社で、効果が出やすい使い方です。日本商工会議所が2026年9月に公表した調査でも、人手が不足していると答えた企業は60.0%にのぼります。今の求人原稿を貼り付けて、応募する側が知りたいことが抜けていないかを指摘させます。
指示の例
以下は当社の求人原稿です。福井県で製造の仕事を探している30代の人の立場で読んで、応募をためらいそうな点と、書かれていなくて知りたい点(1日の流れ、休み、残業、職場の雰囲気など)を挙げてください。
直した原稿の条件(給与・休日・残業時間など)は、必ず実際の条件と合っているか確認します。求人情報で事実と違う表示や誤解を招く表示をすることは、職業安定法で禁じられています。
6. ホームページ・SNS・チラシの文面
「何を・誰に・いつまでに」伝えたいかを箇条書きで渡し、案を3つ出させます。そのまま使うのではなく、いちばん近い案を、会社の言葉に直して使うのがコツです。AIが書いた文章は、どの会社でも同じような言い回しになりがちだからです。
7. 社内のマニュアル・手順書
「あの人しか分からない仕事」を減らすのにも使えます。ベテランの方に作業の手順を話してもらって録音し、文字に起こしたものをAIに渡して、番号付きの手順書に整えてもらいます。白紙から手順書を書くのは大変ですが、話すだけなら10分ほどで済みます。
8. Excelの関数・集計表づくり
先に書いたとおり、AIは計算そのものは苦手です。ただし、計算するための「式」を作るのは得意です。「A列の日付が今月のものだけ、C列の金額を合計したい」のように、やりたいことを言葉で伝えると、Excelの関数やマクロを書いてくれます。計算はExcelに任せ、AIには式を書かせる、という分担です。
AIを使わないほうがいい仕事
当相談室では、AIを使わないほうがいいことは、そうお伝えすると決めています。次のような仕事は、AIに任せないか、使うとしても下書きまでにとどめます。
- 金額の最終確認(見積・請求・給与)計算はExcelや会計ソフトで行い、数字は人が確かめる
- 契約や法律の判断用語の意味を調べる手伝いまで。判断は、弁護士・社会保険労務士・税理士などの専門家に
- 人事評価・採用の合否理由を説明できない判断になりやすく、個人の情報も多い
- 確認せずに外へ出す文章お客様への回答やホームページに載せる文章は、必ず人が読む
- 月に1〜2回しかない作業指示を考える時間のほうが長くなる
- そもそも要らない作業紙の転記や、同じ数字を2か所に入れる作業は、AIより先に「やめる・まとめる」
最後の項目は見落とされがちです。たとえば、手書きの日報を事務の方がExcelに打ち直しているなら、AIを入れる前に、最初からスマホのフォームで入力してもらえば、打ち直しそのものがなくなります。業務効率化の近道が、AIではないこともよくあります。
10人前後の会社で始める進め方(5段階)
大きな会社のように、全社に一斉に導入する必要はありません。社長と、その作業をしている担当者の2人で、1つの作業から始めます。
1. 1週間、事務作業にかかった時間を書き出す
まず、どの作業にどれだけ時間を取られているかを見える形にします。ストップウォッチで測るほど細かくなくて構いません。付箋やメモに「何に・何分」を残す程度で十分です。
| 作業 | 誰が | 回数 | 1回の時間 | 1か月の合計 |
|---|---|---|---|---|
| 見積書の作成と送付 | 社長 | 週8件 | 30分 | 約16時間 |
| 問い合わせメールの返信 | 事務 | 1日5件 | 10分 | 約17時間 |
| 日報の確認と週報づくり | 事務 | 週1回 | 2時間 | 約8時間 |
| 求人原稿の見直し | 社長 | 年2回 | 3時間 | 約0.5時間 |
数字は書き方の例です。1か月は4週・20日として計算しています。
2. 最初の1つを選ぶ
次の3つがそろう作業を選びます。
- 1か月の合計時間が長い(1回は短くても、回数が多いものを含む)
- 毎回だいたい同じ形(文面の型が決まっている)
- 間違えても社内で直せる(いきなり取引先に出ない)
上の例なら、「問い合わせメールの返信」か「見積書の送付文」が候補です。求人原稿は効果は大きいものの回数が少ないので、2つ目以降に回します。
3. 2人で2週間ためす
社長と担当者の2人で、選んだ作業にAIを使ってみます。うまくいった指示は、メモ帳などに貼って残しておきます。この「指示の例」が、あとで社内に広げるときの一番の財産になります。
4. かかった時間を比べる
1で書き出したときと同じやり方で、時間を記録します。たとえば、返信1件が10分から5分になれば、1日5件・月20日で月に約8時間(5分×5件×20日=500分)減る計算です。
2週間ためしても時間が減らない、確認の手間がかえって増えた、という場合は、その作業はAIに向いていないと判断して、やめるか、別の作業に移ります。やめる判断も、立派な結果です。
5. ルールを決めて、ほかの人・ほかの作業に広げる
効果が見えたら、次の章の社内ルールを決めてから、ほかの社員や、ほかの作業に広げます。2でためた指示の例を配ると、パソコンが苦手な方でも始めやすくなります。
情報漏えいを防ぐ社内ルール(最低限の5つ)
社長がいちばん気にされるのが、ここです。個人情報保護委員会は2023年6月、生成AIに個人情報を入力する場合は、利用目的の範囲内かを十分に確認すること、入力したデータがAIの学習に使われないかなどを確認することを、事業者に注意喚起しています。
10人前後の会社なら、次の5つを決めておけば十分です。
- 使うサービスとアカウントを、会社で決める社員が個人の無料アカウントで、仕事の情報を扱わないようにする
- 入力した内容が学習に使われるかを確かめる法人向けのプランは、初期設定で会社のデータを学習に使わないものが多い。ただし同じ会社のサービスでもプランによって扱いが違うことがあるので、契約するプランの説明で確かめる。個人向けのプランは、設定で学習をオフにできるものがある
- 入れてはいけない情報を決めるお客様の氏名・住所・電話番号、社員の個人情報、取引先から預かった図面や単価、パスワード。必要なときは「A社」「〇〇様」に置き換える
- AIの答えは、人が確認してから使う特に数字・日付・固有名詞
- 困ったときに相談する人を決める「これは入れていいのか」と迷ったら、使う前に聞ける人を1人決めておく
取引先と秘密保持契約を結んでいる場合は、相手から預かった情報を外部のサービスに入力してよいか、契約の内容も確認してください。
費用の考え方:ツール代より「浮く時間」で見る
ツール代
生成AIの多くは、無料版から試せます。会社で本格的に使うなら、学習に使われない法人向けのプランを選びます。たとえば ChatGPT の法人向けプラン(ChatGPT Business)は、1人あたり月25ドル(年払いなら月20ドル)、2人から契約できます(2026年10月時点の公式の料金。初期設定で入力内容を学習に使わない)。
また、今の契約に付いているAIから試せることもあります。Microsoft 365 のビジネス向けプランなら、職場のアカウントで使う Copilot Chat が追加料金なしで使え、入力した内容は基盤モデルの学習に使われません。Google Workspace も、プランによっては Gemini が含まれています。
浮く時間をお金に換えてみる
進め方の4で「月に約8時間減った」場合、その時間が残業だったとすると、時給1,500円の方なら残業の割増(25%)を入れて、1,500円×1.25×8時間=月15,000円の計算になります。数字は例ですが、ツール代と比べる目安になります。
大事なのは、浮いた時間を「残業を減らす」のか、「後回しになっている仕事(営業、段取り、新人の教育など)に回す」のかを先に決めておくことです。決めておかないと、浮いた時間はいつの間にか消えてしまいます。
補助金
ツールの導入には、中小企業庁の「デジタル化・AI導入補助金」(2026年からIT導入補助金の名前が変わったもの)が使える場合があります。福井県には「ふくいDX加速化補助金」もありますが、令和8年度分の募集はすでに締め切られています。どちらも年度ごとに募集の時期や条件が変わるので、申し込む前に最新の公募要領を確認してください。
当相談室では、使える補助金のご案内と申請のアドバイスまでを行っています(申請書類の作成代行は行いません)。
社員に反発されないために
AIの話をすると、「自分の仕事がなくなるのでは」と不安に思う社員の方もいます。現場の協力がないと、どんな仕組みも定着しません。
- 目的を最初に言う「人を減らすため」ではなく、「残業を減らし、後回しになっている仕事に時間を使うため」
- 現場の人に選んでもらう「いちばん面倒な作業は何か」を聞いて、そこから始める
- 社長が最初に使ってみせる社長自身の見積書の送付文や、週報の確認から
- うまく使えない人を責めない指示の例を配れば、使い方の差は小さくなる
よくある質問
パソコンが苦手でも使えますか?
使えます。スマホのアプリに話しかけるだけでも、文章の下書きや要約はできます。キーボードで長い文章を打つ必要はありません。
無料版で十分ですか?
ためすだけなら無料版で十分です。ただし、会社の情報を入れて使うなら、入力した内容が学習に使われない設定やプランを選んでください。
ChatGPT、Gemini、Copilot、どれを使えばいいですか?
文章の下書きや要約なら、どれを使っても大きな差はありません。迷ったら、今お使いのメールや表計算のサービスに合わせるのが楽です。Gmail や Googleスプレッドシートを使っている会社は Gemini、Outlook や Excel(Microsoft 365)を使っている会社は Copilot から試すと、アカウントの管理が1つで済みます。
どれくらいで効果が分かりますか?
1つの作業なら、2週間ほどためせば分かります。全社で使いこなすには数か月かかりますが、最初から全社でやる必要はありません。
まとめ
- AIで減らしやすいのは、文章を書く・まとめる・整える仕事。下書きはAI、仕上げは人
- 計算、契約や法律の判断、人事評価は任せない。そもそも要らない作業は、AIより先にやめる
- 社長と担当者の2人で、1つの作業を2週間ためし、時間を比べる。減らなければやめてよい
- 会社の情報を入れる前に、使うサービス・学習の設定・入れてはいけない情報を決める
- 浮いた時間を、残業を減らすのか、後回しの仕事に回すのかを先に決める
「うちの会社なら、どの作業から減らせるか」が分からないときは、まず1の「時間の書き出し」だけでもやってみてください。書き出した表があれば、何から始めるかはほぼ決まります。
参考:個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」(2023年6月2日)、日本商工会議所「多様な人材の活躍等に関する調査」(2026年9月15日公表)、厚生労働省「改正職業安定法」の資料、OpenAI ヘルプセンター(学習への利用)、Microsoft「Copilot Chat のデータ保護」、中小企業庁「デジタル化・AI導入補助金」概要