生産性向上推進体制加算は、見守り機器や介護記録ソフトなどのテクノロジーを使い、委員会を開いて業務改善を続ける介護施設・事業所を評価する加算です。令和6年度の介護報酬改定で新しくできました。
令和8年度(2026年度)からは、施設・居住系サービスで処遇改善加算の上乗せを受けるための条件にもなり、取るかどうかで職員の賃上げの財源が変わるようになりました。この記事では、加算の要件を厚生労働省の通知に沿ってわかりやすくまとめ、小さな施設が加算Ⅱから始めるための現実的な進め方を紹介します。
結論:まず加算Ⅱを、手持ちの道具1つから
- 加算Ⅱは、テクノロジー1つ・委員会・年1回のデータ報告で取れる介護記録ソフト、インカムやビジネスチャット、見守り機器のどれか1つでよい
- 令和8年度からは、処遇改善加算の上乗せ(Ⅰロ・Ⅱロ)の条件になった施設・居住系サービスでは、この加算のⅠかⅡを取ることが上乗せの条件の一つ
- 加算Ⅰは、3種類の機器すべてと役割分担、成果の確認が必要加算Ⅱで3か月以上取り組み、導入前後のデータで成果を示してから
- 委員会は3か月に1回以上。ほかの会議と一緒に開いてよい事故防止の委員会などとまとめたり、オンラインで開いたりできる
- 加算Ⅰに進むなら、機器を入れる前の状況を記録しておく職員の総業務時間・残業時間、有給の取得日数、利用者の満足度
生産性向上推進体制加算とは
介護ロボットやICTなどのテクノロジーを入れたあと、それを使い続けて業務改善を進めることを評価する加算です。2つの区分があります。
- 加算Ⅱ:月10単位委員会を開き、テクノロジーを1つ以上入れて業務改善を続け、年1回データを報告する
- 加算Ⅰ:月100単位加算Ⅱの要件に加えて、テクノロジーを複数入れ、職員の役割分担を行い、データで成果が確かめられている
ⅠとⅡを同時に取ることはできません。原則は、まず加算Ⅱを取って取り組みを続け、成果が確かめられたら加算Ⅰに移る、という段階的な考え方です。
対象になるサービス
短期入所系(ショートステイ)、居住系(グループホーム、特定施設)、多機能系(小規模多機能型居宅介護、看護小規模多機能型居宅介護)、施設系(特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、介護医療院)のサービスが対象です。訪問介護や通所介護(デイサービス)などは対象になりません。
委員会は、加算を取らなくても義務になる
令和6年度の改定で、短期入所系・居住系・多機能系・施設系のサービスには、生産性向上のための委員会を設けることが義務になりました。今は3年間の経過措置の期間中で、令和9年4月からは、加算を取らない施設でも委員会が必要になります。どうせ委員会を開くなら、加算Ⅱまで取ってしまうのが合理的です。
令和8年度から重要になった理由:処遇改善加算の上乗せの条件に
令和8年度の介護報酬改定(6月から)で、介護職員等処遇改善加算に、生産性向上や協働化に取り組む事業所向けの上乗せの区分(加算Ⅰロ・Ⅱロ)ができました。施設・居住系サービスなどでは、この上乗せを受ける条件の一つが「生産性向上推進体制加算のⅠかⅡを取っていること(と実績報告)」です。
上乗せでどれくらい加算率が変わるかの例です(厚生労働省の資料より)。
| サービス | 処遇改善加算Ⅰイ | 上乗せ後のⅠロ |
|---|---|---|
| 介護老人福祉施設(特養)・短期入所生活介護 | 16.3% | 17.6% |
| 認知症対応型共同生活介護(グループホーム) | 21.0% | 22.8% |
| 小規模多機能型居宅介護 | 17.1% | 18.6% |
| 特定施設入居者生活介護 | 14.8% | 15.9% |
| 介護老人保健施設 | 9.0% | 9.7% |
加算Ⅱそのものは月10単位と小さな加算ですが、処遇改善加算の上乗せの条件になっていることのほうが、影響はずっと大きいと言えます。たとえば、処遇改善加算を除いた介護報酬が月1,000万円の特養なら、加算率が1.3ポイント上がると、月におよそ13万円の差になります(数字は計算の例です。処遇改善加算は全額を職員の賃金改善に使います)。
令和8年度の処遇改善加算の申請時点で、まだ生産性向上推進体制加算を取っていなくても、「取ることを誓約」すれば上乗せの区分で申請できます。ただし、処遇改善加算の実績報告で、実際に算定したことを報告する必要があります。訪問・通所系サービスでは、この加算ではなく「ケアプランデータ連携システム」への加入が上乗せの条件になります。小規模多機能型居宅介護などは、どちらでも条件を満たせます。
加算Ⅱの要件
- 委員会を開き、安全対策をとったうえで、業務改善を続ける委員会は3か月に1回以上。厚生労働省の「生産性向上ガイドライン」に沿って改善を続ける
- テクノロジーを1つ以上使う見守り機器、インカム等(ビジネスチャットを含む)、介護記録ソフト等のどれか1つ以上
- 年1回、取り組みのデータを厚生労働省に報告する利用者の満足度、職員の総業務時間と残業時間、有給休暇の取得日数の3項目
使うテクノロジーの3つの種類
- 見守り機器利用者がベッドから離れようとしたこと・離れたことを感知し、職員に知らせるセンサー。居室に置くときは、利用者やご家族に説明して同意を得る
- インカム等の連絡用のICT機器マイク付きのイヤホンのほか、ビジネス用のチャットツールも含む。加算Ⅱでも、同じ時間帯に働く介護職員全員が使うことが条件
- 介護記録ソフトやスマートフォン等データの入力から記録・保存・活用までを一体的に支援するものに限られる(複数の機器の連携も含む)
小さな施設が加算Ⅱから始める進め方
1. 委員会で、困りごとを洗い出す
最初に、介護職員を含めて「どの業務に時間がかかっているか」「どこでヒヤリハットが起きやすいか」を出し合います。記録に時間がかかるのか、職員どうしの連絡に走り回っているのか、夜間の巡視が負担なのかで、選ぶテクノロジーが変わります。
2. テクノロジーを1つ選ぶ
- 記録に時間がかかるなら、介護記録ソフトスマホやタブレットでその場で入力でき、記録の転記や集計の手間が減る
- 連絡や呼び出しに走り回っているなら、インカムやビジネスチャット同じ時間帯の介護職員全員が使えるよう、台数とアカウントをそろえる
- 夜間の巡視の負担が大きいなら、見守り機器安全面から特に注意が必要な利用者は、定時の巡視も続けるかを委員会で決める
介護記録の書き方や、記録ソフトを選ぶときの注意、利用者さんの個人情報の扱いは「介護記録の書き方と効率化」で詳しく紹介しています。
3. 届け出て、3か月に1回以上委員会を開く
加算を取るには、指定権者(県や市町)への届け出が必要です。取り始めたら、3か月に1回以上委員会を開き、機器を入れたあとの利用者さんの状態、職員の負担、機器の点検、研修の4つを確かめます。
4. 年1回、データを報告する
事業年度ごとに1回、取り組みのデータをオンラインで厚生労働省に報告します。加算Ⅱの場合は次の3項目です。
- 利用者の満足度など5人程度の利用者を対象に、決められた調査票で調べる。利用者やご家族の同意を得て行う
- 介護職員の総業務時間と残業時間原則として10月の1か月分(算定を始めた年は、始めた月)。タイムカードなどの客観的な記録で
- 有給休暇の取得日数10月を起点に、直近1年間の取得日数
タイムカードや勤怠の記録がきちんと残っていれば、2つ目と3つ目はそこから集計できます。勤怠を紙の出勤簿だけで管理している場合は、先に整えておくと、報告の手間がぐっと減ります。
委員会の進め方(小さな施設向け)
「委員会」と聞くと大がかりに感じますが、厚生労働省の解説では、小さな施設でも続けやすいように、次のような運営が認められています。
- ほかの会議と一緒に開いてよい事故防止のための委員会など、すでに開いている会議と一体で設置・運営できる
- オンラインで開いてよいテレビ電話などを使える。個人情報の扱いはガイダンスに沿う
- 外部の専門家を入れてもよいほかのサービス事業者と連携して行うこともできる
- 加算を取る場合は、ケアを行う職員の参加が必要管理者だけでなく、介護職員やユニットリーダーなど、現場の声が届く人を入れる
毎回の議題は、次の型を使うと、要件の4つの事項に沿って進められます。
【委員会】 年 月 日( ) :〜 : 【参加者】管理者/介護職員/看護職員/ケアマネ など 1. 利用者の安全とケアの質 ・機器を入れたあと、利用者さんの状態に変わりはないか ・ヒヤリハット・事故はあったか、原因と対策 2. 職員の負担 ・負担が増えた時間帯はないか(アンケート・聞き取り) ・休憩や残業の状況 3. 機器の点検 ・不具合はなかったか、点検の予定 4. 研修 ・使い方の講習、ヒヤリハットの共有の予定 【決まったこと】 【宿題(担当・期限)】 【次回】
委員会の記録の残し方は「議事録の書き方」も参考にしてください。
加算Ⅰの要件
加算Ⅰは、加算Ⅱの要件に加えて、次の3つが必要です。
- 3種類のテクノロジーをすべて使う見守り機器はすべての居室に設置し、インカム等は同じ時間帯の介護職員全員が使い、介護記録ソフト等も使う
- 職員の役割分担を行う利用者の介助に集中する職員を決める、食事の準備や清掃などを担う「介護助手」を活用する、など
- データで成果が確かめられている加算Ⅱの機器を入れてから3か月以上取り組み、導入前後を比べて、利用者の満足度が下がっていない・職員の総業務時間と残業が減った・有給の取得日数が維持または増えた、を示す
報告するデータも5項目に増え、介護職員の心理的な負担の調査や、5日間のタイムスタディ(業務時間の記録)が加わります。加算Ⅰを目指すなら、加算Ⅱの機器を入れる前に、導入前の状況を調べておくことが大切です。あとからでは比べるデータが取れません。
加算Ⅰと加算Ⅱの比較
| 項目 | 加算Ⅱ | 加算Ⅰ |
|---|---|---|
| 単位 | 月10単位 | 月100単位 |
| テクノロジー | 3種類のうち1つ以上 | 3種類すべて |
| 委員会 | 3か月に1回以上 | 3か月に1回以上 |
| 役割分担 | 要件ではない | 必要(介護助手の活用など) |
| 成果の確認 | 要件ではない | 導入前後のデータで確認 |
| 年1回の報告 | 3項目 | 5項目 |
機器の費用と、福井県の補助
介護記録ソフトや見守り機器、インカムの導入には、国の基金を使った都道府県の補助があります。福井県では「介護テクノロジー等導入支援事業補助金」として募集されていて、令和7年度は次のような内容でした。
- 補助率は4分の3介護ソフトは1事業所あたり最大255万円、介護ロボット等は最大100万円
- 募集は7月14日〜31日の約2週間受付期間が短いので、夏までに何を入れるかを決めておく
- 管理者などのセミナー受講が条件県の「介護現場の生産性向上セミナー」を受けていることが申請の条件だった
内容と時期は毎年度変わるので、福井県の長寿福祉課の案内を確認してください。
よくある質問
訪問介護やデイサービスも、この加算を取れますか?
取れません。対象は短期入所系・居住系・多機能系・施設系のサービスです。訪問・通所系のサービスが令和8年度の処遇改善加算の上乗せを受けるには、ケアプランデータ連携システムへの加入が条件になります。
ビジネスチャットだけで加算Ⅱを取れますか?
インカム等の連絡用のICT機器には、ビジネス用のチャットツールも含まれます。ただし、同じ時間帯に働く介護職員全員が使うことが条件です。委員会の開催や年1回のデータ報告など、ほかの要件もそろえる必要があります。
最初から加算Ⅰを取れますか?
以前から生産性向上の取り組みを進めていて、成果を示すデータがある事業所は、最初から加算Ⅰを取ることもできます。それ以外は、加算Ⅱの機器を入れてから3か月以上取り組み、導入前後のデータで成果を示す必要があります。
委員会は毎月開く必要がありますか?
加算を取る場合は、3か月に1回以上です。毎月でなくても構いません。ほかの会議と一緒に開いたり、オンラインで開いたりもできます。
まとめ
- 加算Ⅱは、テクノロジー1つ・委員会・年1回の報告で取れる介護記録ソフト、インカムやビジネスチャット、見守り機器のどれか1つ
- 令和8年度からは、処遇改善加算の上乗せの条件施設・居住系サービスでは、取るかどうかで賃上げの財源が変わる
- 委員会は令和9年4月から義務。どうせ開くなら加算Ⅱまでほかの会議と一緒に、オンラインでも開ける
- 加算Ⅰを目指すなら、機器を入れる前のデータを残す総業務時間・残業時間、有給、利用者の満足度
- 機器の費用は、福井県の補助を使える募集は夏に短期間。早めに準備する
参考:厚生労働省「生産性向上推進体制加算に関する基本的考え方並びに事務処理手順及び様式例等の提示について」(老高発0315第4号、令和6年3月29日改正)、厚生労働省「令和6年度介護報酬改定 生産性向上推進体制加算について」(令和8年3月更新)、厚生労働省「介護職員等処遇改善加算の拡充」(令和8年度介護報酬改定)、介護保険最新情報 Vol.1474(令和8年3月4日)、福井県「令和7年度 介護テクノロジー等導入支援事業補助金の募集について」