介護記録は、毎日すべての職員が書く記録です。「書くのに時間がかかる」「人によって書き方がばらばら」という悩みは、どの施設・事業所でもよく聞きます。
この記事では、介護記録の書き方の基本と言い換えの例、場面別の例文、そのまま使えるテンプレートをまとめました。あわせて、記録ソフトを買わずに記録の時間を減らす方法と、AIを使うときに利用者さんの個人情報を守る決まりも紹介します。
結論:書き方の「型」を決めれば、記録は短く、伝わるようになる
- 見たこと・聞いたことと、自分の判断を分けて書く5W1Hと数字を使い、誰が読んでも同じ場面が浮かぶように
- 書く項目と言い回しを、施設で決めておくチェック欄とテンプレートで、迷う時間と書き漏れを減らす
- その場で短く書き、同じことを2回書かないまとめ書きと、業務日誌・ケース記録・申し送りノートの重複が、時間を取る
- AIを使うなら、名前を伏せ、施設で決めたサービスだけで個人の無料アカウントに利用者さんの情報を入れない。出てきた文は必ず職員が確かめる
- 記録は決められた期間、保存する国の基準は2年。福井県は、県が指定するサービスで5年と定めている
介護記録とは?何のために書くのか
介護記録は、利用者さんに行ったケアと、そのときの様子を残す記録です。介護保険の基準で、サービスの記録を作って保存することが事業所に求められています。役目は大きく4つあります。
- 職員どうしでケアをつなぐ次の勤務の職員が、記録を読めば同じケアを続けられる
- 利用者さんの変化に気づく食事量や睡眠の少しずつの変化は、記録を並べて初めて見えることが多い
- ご家族や医療職に説明する「いつ・何があって・どう対応したか」を、記録をもとに伝えられる
- 事故やトラブルのときに、利用者さんと職員を守る行ったケアが記録に残っていれば、適切に対応したことを示せる
介護記録の書き方の基本5つ
- 見たこと・聞いたことと、自分の判断を分ける「不機嫌だった」は判断。「声をかけても返事がなく、顔をそむけた」が事実。判断を書くなら「〜と思われる」と分かる形で
- 5W1Hと数字で書くいつ・どこで・誰が・何を・なぜ・どのように。食事量は割合、水分はml、時間は時刻で
- あいまいな言葉を使わない「様子を見る」「元気がない」「いつもどおり」は、読む人によって受け取り方が変わる
- 利用者さんの言葉は、そのまま「」で書く「家に帰りたい」と言ったのか、「帰らなきゃ」と言ったのかで、伝わることが違う
- 対応と結果まで書く何が起きたかだけでなく、何をして、どうなったか、誰に報告したかまで
あいまいな書き方の言い換え例
- 「様子観察」→22時から30分おきに訪室。寝息を立てて眠っていることを確認
- 「元気がない」→朝食を半分残し、話しかけても返事が短い。昨日までは自分から話していた
- 「入浴拒否」→14時に声をかけると「今日はいい」と話し、入浴されず。16時に再度声をかける予定
- 「食事ほぼ全量」→主食10割、副食8割、お茶200ml
- 「不穏」→21時ごろから廊下を歩き、「家に帰らなきゃ」と話す。お茶を飲みながら話を聞くと、22時に居室で横になる
場面別の介護記録の例文
よくある場面の例文です。利用者さんの名前は伏せて「Aさん」としています。施設の書き方のルールがある場合は、そちらに合わせてください。
食事
例文
12時、昼食。主食10割、副食7割、汁物全量、お茶150ml。魚の煮付けを2回むせたため、とろみを付けたお茶を出すと、その後むせなし。看護師に報告。
排泄
例文
10時、トイレ誘導。排尿あり(普通量)。排便なし(3日目)。本人から「お腹が張る」との訴えあり。看護師に報告し、水分を多めにとるよう声かけを続ける。
入浴
例文
14時、一般浴。入浴前の体温36.5度、血圧128/76。右のかかとに直径1cmほどの赤みあり(痛みの訴えなし)。看護師に報告し、皮膚の状態を次回の入浴時も確認する。
夜間
例文
2時、ナースコールあり。訪室すると「眠れない」と話す。トイレ誘導後、温かいお茶を100ml飲み、5分ほど話をすると「もう寝る」と話し、2時30分の巡視時には入眠していた。
転倒・ヒヤリハット
例文
15時10分、居室で床に座り込んでいるところを発見。本人は「立とうとしたら滑った」と話す。頭は打っていないとのこと。目で見て分かるけがなし、痛みの訴えなし。看護師が確認し、家族と管理者に報告。ベッド横の靴を、滑りにくいものに替える。
そのまま使える介護記録のテンプレート
ケース記録などに、この順番で書く癖をつけると、書き漏れが減り、読む人も探しやすくなります。
【日時】 月 日 : 【場面】(食事・排泄・入浴・夜間・レク など) 【様子】見たこと・聞いたこと(本人の言葉は「」で) 【対応】職員がしたこと 【結果】対応のあと、どうなったか 【報告・申し送り】誰に報告したか/次の勤務でしてほしいこと 【記録者】
医療職との記録では、S(本人の言葉)・O(見たこと・測ったこと)・A(判断)・P(これからの対応)の4つに分けて書く「SOAP」という書き方も使われます。考え方は上のテンプレートと同じで、事実と判断を分けて書くための型です。
記録ソフトを買わずに、記録の時間を減らす方法
記録の時間を減らすというと、まず記録ソフトの話になりがちです。ただ、その前に、今の書き方を見直すだけで減らせることがたくさんあります。
- 毎回書く項目は、チェック欄にする食事量、水分量、排泄、体温・血圧などは、文章で書かずに数字と丸印で済む形に
- よく使う言い回しを、施設で1枚にまとめる上の言い換え例のような「施設の文例集」を作り、記録する場所に置いておく
- その場で短く書き、勤務の終わりにまとめて書かないまとめ書きは思い出す時間がかかり、時刻や数字も不正確になる
- 同じことを2回書かない業務日誌・ケース記録・申し送りノートに同じ内容を書いていないかを見直し、書く場所を1つに決める
- 音声入力を使うスマホやタブレットの音声入力なら、話すだけで文字になる。施設で決めた端末とルールの中で使う
- 申し送りは「変わったこと」だけにする記録を読めば分かることを口で繰り返さない
4つ目の「同じことを2回書かない」は、介護に限らず、事務作業でいちばん時間を取りやすいムダの一つです。ほかの例は「業務効率化の進め方とアイデア15選」で紹介しています。
申し送りを短くするコツ
申し送りは、利用者さんごとに「変わったこと」「したこと」「次の勤務でしてほしいこと」の3つだけを伝える形にすると、短く、漏れなく伝わります。
申し送りの例
Aさん:昼から37.4度の微熱(変わったこと)。水分を多めに、15時に再検温して37.2度(したこと)。夜の巡視で熱と呼吸の様子を見てください(次にしてほしいこと)。
会議や打ち合わせの記録の残し方は「議事録の書き方」でもまとめています。
介護記録にAIを使う方法
ChatGPTなどの生成AIは、文章を整えるのが得意です。介護記録では、次のような使い方ができます。
- 走り書きのメモを、記録の文に整える「14時 入浴 今日はいい 16時再度」のようなメモを、伝わる文章に直す
- 主観的な表現がないか、見直してもらう「わがまま」「拒否」などの言葉を、事実を書く形に言い換える
- 施設の文例集や、新人向けの研修資料を作る利用者さんの情報を使わずにできる、いちばん安全な使い方
- 記録ソフトに付いているAI機能を使う介護記録のソフトにも、文例の提案や要約などのAI機能が付いたものが増えている
指示の例
以下は介護職員のメモです。介護記録の文章に整えてください。条件:見たこと・聞いたことと判断を分ける。本人の言葉は「」で残す。メモに書かれていないことは足さない。人の名前は「Aさん」のまま変えない。
メモ:14時 入浴声かけ 今日はいいと言う 無理せず 16時もう一回声かける予定
ここで大事なのは、AIに渡すメモに、利用者さんの名前や、誰か分かる情報を入れないことです。次の章で、具体的な決まりを説明します。
AIを使うときの、利用者さんの個人情報の守り方
介護記録には、病気や心身の状態など、個人情報保護法で特に慎重な扱いが求められる「要配慮個人情報」がたくさん含まれます。個人情報保護委員会は、生成AIに個人情報を入力する場合、利用目的の範囲内かを十分に確認すること、入力した情報がAIの学習などに使われないかを確認することを、事業者に注意喚起しています。
施設として、最低限、次の7つを決めておきましょう。
- 使うサービスとアカウントを施設で決める職員が個人の無料アカウントやスマホのアプリで、利用者さんの情報を扱わないようにする
- 入力した内容が学習に使われない設定・プランを選ぶ法人向けのプランは、初期設定で学習に使わないものが多い。契約するプランの説明で確かめる
- 名前・生年月日・住所・部屋番号・ご家族の名前は入れない「Aさん」のように置き換える。置き換えた名前と本人の対応表は、AIに渡さない
- 名前を伏せても、組み合わせで誰か分かる情報に気をつける珍しい病名、年齢、住んでいる地区、入所日などが重なると、本人が分かってしまうことがある
- 正式な記録は、施設で決めた場所に残すAIの画面は下書きの場所。整えた文は記録ソフトやケース記録に写し、AIの側に記録をためない
- 出てきた文は、書いた職員が必ず確かめるAIは、メモにないことを補ったり、数字を間違えたりすることがある。記録の責任は職員にある
- 決まりを紙1枚にして、全員に説明する入れてよい情報・いけない情報、使ってよいサービス、困ったときに聞く人を書いておく
利用者さんやご家族への説明(個人情報の利用目的)や、外部のサービスに情報を預けるときの契約の考え方は、個人情報保護委員会と厚生労働省の「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」に沿って確認してください。会社でAIを使うときの一般的なルールは「AIで業務効率化する方法」でもまとめています。
介護記録の保存期間
介護サービスの記録は、決められた期間、保存しなければなりません。
- 国の基準:サービスの完結の日から2年「完結の日」は、契約の終了や利用者さんの退所などで、一連のサービスが終わった日
- 福井県:県が指定するサービスは5年福井県の条例で、居宅サービスや施設サービスの記録を5年間保存すると定めている。介護報酬の返還を求める権利の時効(5年)にそろえるため
- 市町が指定するサービスは、市町の条例を確認地域密着型サービスや居宅介護支援などは、指定する市町の決まりに従う
保存期間は自治体によって違うので、自分の事業所を指定している県や市町の基準で確かめてください。記録を電子化する場合も、保存期間の考え方は同じです。
記録ソフトを入れるなら:選び方と福井県の補助
記録を電子化すると、その場で入力でき、集計や請求とつながるなど、手間を大きく減らせます。選ぶときは、次の点を確かめます。
- 現場の職員がスマホやタブレットで入力しやすいか実際に記録する職員に、試しに使ってもらう
- 今の請求ソフトとつながるか同じ情報を2回入力しなくて済むか
- ログインや閲覧できる人の管理ができるか職員ごとのアカウント、退職した人の削除など
- AI機能を使う場合、データがどう扱われるか入力した記録が学習に使われないか、どこに保存されるか
福井県には、介護ソフトや見守り機器などの導入費を補助する「介護テクノロジー等導入支援事業補助金」があります。令和7年度は、補助率が4分の3、介護ソフトは1事業所あたり最大255万円で、募集は7月14日から31日までの約2週間でした。事業所の管理者などが県の「介護現場の生産性向上セミナー」を受けていることも条件でした。毎年度、内容と時期が変わるので、福井県の長寿福祉課の案内を確認してください。
よくある質問
介護記録は手書きでもいいですか?
手書きでも問題ありません。大事なのは書き方と、決められた期間の保存です。手書きの場合も、上のテンプレートの順番で書くと、読みやすく、書き漏れが減ります。
介護記録は、ご家族に見せることがありますか?
あります。ご本人やご家族から記録を見せてほしいと求められることもあります。そのため、職員の感想や決めつけではなく、事実を書くことが大切です。
AIで整えた記録を、そのまま使っていいですか?
そのままは使わず、書いた職員が必ず読み直してください。AIは、メモにないことを補ったり、時刻や数字を間違えたりすることがあります。記録の内容に責任を持つのは、記録した職員と事業所です。
職員によって書き方がばらばらです。どうすればそろいますか?
テンプレートと、施設の文例集を1枚ずつ作るのがいちばんの近道です。最初の1か月は、リーダーが記録を読んで、言い換えの例を一言返すと、書き方が早くそろいます。
まとめ
- 介護記録は「事実と判断を分けて、5W1Hと数字で」あいまいな言葉を、伝わる書き方に言い換える
- テンプレートと施設の文例集で、書き方をそろえる日時・場面・様子・対応・結果・報告の順に
- 記録の時間は、チェック欄・その場で書く・二重記録をやめるで減らす記録ソフトを考えるのは、その後でもよい
- AIは、名前を伏せ、施設で決めたサービスだけで使う出てきた文は職員が必ず確かめる
- 保存は、国の基準で2年、福井県では5年自分の事業所を指定している県や市町の基準で確かめる
参考:個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」(2023年6月)、個人情報保護委員会・厚生労働省「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」、福井県「指定居宅サービス等の事業の人員、設備および運営の基準等に関する条例」(条例・規則・解釈通知)、福井県「令和7年度 介護テクノロジー等導入支援事業補助金の募集について」