「AIが便利らしいので試してみたけど、何と書けばいいのか分からなかった」「それらしい答えは返ってきたけど、仕事では使えなかった」。社長や事務の方から、よく聞く話です。
うまくいかない原因の多くは、AIの性能ではなく指示(プロンプト)の書き方にあります。この記事では、見積書の送付メール、日報、議事録、問い合わせの返信など、事務作業でよく使う6つの場面について、AIに渡したメモ・指示文・実際に返ってきた出力をそのまま並べました。写して試せる見本集です。
結論:「材料」と「形」を渡せば、AIは使える下書きを返す
- AIに渡すのは「材料」と「形」材料=メモや日報などの元の情報。形=誰に向けて、どんな形で、何文字くらいで
- 「書かれていないことは足さない」と必ず添えるAIがもっともらしい話を補うのを防げる
- 出てきた文は「下書き」として、人が確かめてから使うこの見本でも、人が直したほうがいい所があった
- まずは1つの作業から見積書の送付文や日報のまとめなど、毎週くり返す作業が試しやすい
この見本集の見方
6つの見本は、どれも次の順番で並べています。
- 渡したメモ社員が書いたような、短いメモや箇条書き
- 指示文(プロンプト)AIへの頼み方。〔 〕の中を自社の内容に替えれば、そのまま使える
- AIの出力生成AI(Claude)に指示文とメモを渡して、返ってきた文章をそのまま載せた
- 確かめたいところそのまま送る前に、人が見ておきたい点
会社名・人名・金額はすべて架空のものです。ChatGPT・Gemini・Copilot など、ほかの生成AIでも同じ指示文で使えますが、返ってくる文章は少しずつ違います。どれくらい時間が減るかは会社の作業によって違うので、ここでは時間の数字は載せていません。
見本1:見積書の送付メール
【メモ】 ・A社 購買の田中さん宛て ・部品B 500個の見積もり ・前回より単価が8円上がった(材料の値上がり) ・納期は受注から3週間 ・数量がまとまれば相談に乗れる
指示文
取引先の購買担当者に送る、見積書送付のメールを書いてください。丁寧だが長すぎない、200字程度の文面で。下のメモに書かれていないことは足さないでください。〔メモを貼り付け〕
AIの出力
件名:お見積書送付の件(部品B)
A社 田中様
いつもお世話になっております。
ご依頼いただきました部品B 500個のお見積書をお送りいたします。
材料価格の上昇により、前回から単価を8円改定させていただいております。誠に恐縮ですが、ご理解いただけますと幸いです。
納期は受注から3週間を予定しております。
なお、数量がまとまる場合はご相談に応じますので、お気軽にお申し付けください。
ご検討のほど、よろしくお願いいたします。
- 確かめたいところ単価の差(8円)と納期が、添付する見積書の数字と合っているか。差出人の署名は自社のものを付ける
見本2:日報を週報にまとめる
【今週の日報(抜粋)】 月:C製品の加工100個。機械2号機の異音、保全に連絡 火:C製品100個。2号機は部品交換で午後から復旧 水:D社向け試作3個。寸法1か所やり直し 木:C製品120個。新人の佐藤さんに検査を教えた 金:C製品80個、出荷準備。来週は棚卸し
指示文
以下は今週の日報です。社長に報告する週報として、①終わった作業 ②問題が起きたこと ③来週の予定 の3つに分けて、箇条書きでまとめてください。数字は日報のとおりに。日報に書かれていないことは足さないでください。〔日報を貼り付け〕
AIの出力
①終わった作業
・C製品の加工 計400個(月100・火100・木120・金80)
・D社向け試作 3個
・新人の佐藤さんへの検査の指導(木)
・出荷準備(金)
②問題が起きたこと
・月曜、機械2号機に異音。保全に連絡し、火曜に部品交換、午後から復旧
・D社向け試作で、寸法1か所のやり直し
③来週の予定
・棚卸し
- 確かめたいところ合計の計算(400個)は人が確かめる。AIは計算を間違えることがある。この見本では合っていた
見本3:議事録を清書する
【打ち合わせの文字起こし(抜粋)】 えーと、年末の出荷なんですけど、12月はやっぱり詰まるんで、 11月中に2割くらい先に作っておこうかと。…そうですね、それで。 品目の一覧は、佐藤さん来週の金曜までにお願いできます? …はい。あと休みの日程は、まだちょっと決めきれないので次回に。 次回は11月20日の10時で。
指示文
以下は社内の打ち合わせを文字に起こしたものです。【決まったこと】【宿題(担当・期限)】【決まらなかったこと】【次回】の形で議事録にまとめてください。話し言葉は短く言い切る形に。文字起こしに書かれていないことは足さないでください。はっきりしない部分は【要確認】と書いてください。〔文字起こしを貼り付け〕
AIの出力
【決まったこと】
・12月の出荷分は、11月中に約2割を前倒しで生産する
【宿題(担当・期限)】
・前倒しで作る品目の一覧を作る(担当:佐藤/期限:来週の金曜【要確認:日付】)
【決まらなかったこと】
・年末年始の休みの日程(次回に持ち越し)
【次回】
・11月20日 10時〜
- 確かめたいところ「来週の金曜」を日付に直す。AIが自分で【要確認】を付けてくれたので、どこを見ればいいかがすぐ分かる
見本4:問い合わせへの返信
【お問い合わせ(名前は伏せています)】 ホームページを見ました。修理だけでもお願いできますか? 他社で買った製品なんですが。土曜は営業していますか? 【当社のよくある質問の答え】 ・他社製品の修理は、型番を確認してから可否を連絡 ・営業は平日9時〜17時、土日祝は休み
指示文
以下のお問い合わせへの返信の下書きを、丁寧で分かりやすい文面で書いてください。答えは「当社のよくある質問の答え」に書かれている範囲だけにし、分からないことは約束しないでください。〔お問い合わせと答えを貼り付け〕
AIの出力
お問い合わせいただき、ありがとうございます。
他社でご購入された製品の修理につきましては、型番を確認したうえで、お受けできるかどうかをご連絡いたします。お手数ですが、製品の型番をお知らせいただけますでしょうか。
なお、営業時間は平日9時〜17時で、土曜・日曜・祝日はお休みをいただいております。
引き続きよろしくお願いいたします。
- 確かめたいところ「修理できます」と約束していないか。この見本では、答えの範囲だけに収まっていた
見本5:求人原稿を見直す
【今の求人原稿(抜粋)】 製造スタッフ募集!未経験歓迎!アットホームな職場です。 やる気のある方お待ちしています。給与は経験により優遇。
指示文
以下は当社の求人原稿です。福井県で製造の仕事を探している30代の人の立場で読んで、①応募をためらいそうな点 ②書かれていなくて知りたい点 を挙げてください。原稿は書き直さず、指摘だけにしてください。〔原稿を貼り付け〕
AIの出力
①応募をためらいそうな点
・「アットホームな職場」「やる気のある方」は、どの会社でも書けるため、職場の様子が想像できない
・「給与は経験により優遇」だけでは、自分がいくらもらえるのか分からない
②書かれていなくて知りたい点
・給与の具体的な金額(月給・時給の幅)
・1日の仕事の流れと、扱う製品
・勤務時間、休日、残業がどのくらいあるか
・未経験の場合、誰がどのように教えてくれるか
・職場の人数や年代
- 確かめたいところ指摘をもとに書き直したら、給与や休日などの条件が実際と合っているかを必ず確かめる(求人で事実と違う表示や誤解を招く表示は、職業安定法で禁じられている)
見本6:Excelの集計の式
【やりたいこと】 A列に日付、B列に取引先名、C列に売上金額が入っている表がある。 F2セルに取引先名を入れたら、その取引先の今月の売上合計を出したい。
指示文
Excelで、次のことをする式を教えてください。どのセルに何を入れるかも書いてください。〔やりたいことを貼り付け〕
AIの出力
G2セルに、次の式を入れてください。
=SUMIFS(C:C, B:B, F2, A:A, ">="&EOMONTH(TODAY(),-1)+1, A:A, "<="&EOMONTH(TODAY(),0))
・C:C … 合計する売上金額の列
・B:B, F2 … 取引先名がF2と同じ行だけ
・A:A の2つの条件 … 今月1日から今月末日までの日付だけ
F2の取引先名を変えると、G2の合計も自動で変わります。
- 確かめたいところ式を入れたら、数件だけ手で足し算して合っているかを確かめる。計算そのものはExcelが行うので、式が正しければ間違えない
Excelの式の頼み方と、月末の集計でAIが書いた式を実際に確かめた例は「ChatGPTでExcelの関数を作る方法」で詳しく紹介しています。
うまくいく指示文の3つのコツ
- 材料をそのまま貼り付ける「見積書のメールを書いて」だけでは、AIは中身を想像で補う。メモや日報など元の情報を渡す
- 「誰に向けて・どんな形で・何文字くらい」を書く取引先なのか社長なのか、箇条書きなのか文章なのかで、返ってくるものが大きく変わる
- 「書かれていないことは足さない」「分からない所は【要確認】」と添えるAIが話を盛るのを防ぎ、確かめる場所がひと目で分かる
ほかの場面で使える指示文は、「AIで業務効率化する方法」や「議事録の書き方」でも紹介しています。
とはいえ、伝えたい2つのこと
1. AIの出力は「下書き」。最後は人が確かめる
6つの見本は、どれもそのまま使えそうな出来でした。それでも、日付を確かめる、合計を確かめる、条件が実際と合っているかを確かめる、といった人の確認は欠かせません。AIは、知らないことでも自信ありげに書くことがあるからです。白紙から書く時間をAIに任せ、確かめる時間は人が持つ。この分担が、いちばん長続きします。
2. 全部を一度に変えず、1つの作業から
見本を見て「全部AIでできそうだ」と思っても、まずは1つの作業だけを、2週間ほど試してください。毎週くり返す作業(送付メール、週報、議事録など)が向いています。うまくいった指示文を社内で共有してから、ほかの作業や、ほかの社員に広げると、「思ったほど使えない」「社員に広がらない」で終わりにくくなります。進め方は「AIで業務効率化する方法」の「始める進め方(5段階)」で紹介しています。
会社の情報をAIに入れる前に、入れてはいけない情報と、使うサービスを決めておくことも忘れずに。お客様の名前や連絡先は、見本のように伏せてから渡します。
指示文づくりに向けて、鯖江AI相談室がお手伝いできること
鯖江AI相談室は、AIを使って仕事の手間を減らす仕組みを作っています。福井県内は伺います。県外の会社はオンラインで対応します。指示文づくりについては、たとえば次のようなことをお手伝いできます。
- 御社の仕事で1つ、試しに作ってお見せする見積書の送付文、日報のまとめ、議事録など、実際の仕事の材料で、指示文と出力の見本を作る
- 会社専用の指示文集づくりよく使う場面の指示文を、社員がそのまま写して使える形にまとめる
- 使うサービスの選定と、情報を守る社内ルール入れてはいけない情報などの決まりを、紙1枚にまとめる
- 社員向けの使い方講習パソコンが苦手な方でも使えるよう、実際の業務を題材に
よくある質問
無料のAIでも、見本のような出力になりますか?
無料版でも、同じ指示文で近い出力が返ってきます。ただし、会社の情報を入れて使うなら、入力した内容が学習に使われない設定やプランを選んでください。
毎回、指示文を全部打たないといけませんか?
いいえ。よく使う指示文は、メモ帳やWordに貼っておき、〔 〕の中だけ書き換えて使えば十分です。社内で共有しておくと、使い方の差も小さくなります。
まとめ
- AIには「材料」と「形」を渡すメモをそのまま貼り、誰に向けて・どんな形でを書く
- 「書かれていないことは足さない」と添える分からない所は【要確認】と書かせる
- 出力は下書き。数字・日付・条件は人が確かめる白紙から書く時間をAIに任せる
- まずは1つの作業を2週間うまくいった指示文を社内で共有してから広げる